
新井 卓
2007年 1月10日(水) ~ 1月31日(水)
Open 12:00~Close 19:00 [休廊日=日曜]
鏡面のなかにうつる景色、瞳のなかにうつしだされる現実。
新井の【眼】と【カメラ】で捉えられた鏡をみるとき、見るものは写真のなかにうつりこむ瞬間を探るうちに次第にそのなかへと吸い込まれてゆく。そこには、一見すると表面的に捉えられた人物や、鏡のこちら側へ折り畳まれたもう一つの空間が、まるで縁のないもののように重なり合って映し出されている。そうして私たちはそこにある鏡の実在に気づき、ひとつの瞬間から終わらない物語を想像しはじめるだろう。本展は、新井卓関西初の個展となります。
期間中に新井卓と小林美香 (写真研究者) によるTALK SHOW/WORK SHOPを開催いたします。
詳細は【 Takashi ARAI 】 http://www.TakashiArai.com まで。
『見つめ返す鏡』 新井 卓
鏡、あるいはこの底なしの深 さのなさ。それが鏡の中に入ることをひとに夢みさせるのだ。そして鏡の中で、ひとは無限に表面にいる。 われわれはそこでは決して奥にまで達することはできない。(宮川淳『紙片と眼差しのあいだに』) まだ小さかったころ、家の玄関に大きな姿見が掛けられていて、身長の倍ほどもあるその鏡にわたしはすっかり魅了されていた。よく 磨かれた鏡面に近寄ってのぞき込むと、鏡のフレームは視界の端でぼやけて消え、身体は鏡の世界に包みこまれてしまう。そのような近さで覗き込むうちに、わたしのいるこちら側よりもあちら側──鏡像の世界──が、危うい鮮明さでその存在を確かなものにしていくように思えた。わたしは、鏡に映されたドアや廊下、階段の暗がりの向こうに、こちら側の世界と同じように、見えない「裏側」が隠され ているのかどうか知りたかった。ドアの向こう側に、お向かいの家の塀や木立、空や地球の裏側や太陽や宇宙が、こちら側の世界に呼応 してどこまでも重なり合っているとすれば、いま向かい合っている鏡の世界とはいったいどれほどの奥行きと広さを持っているのだろう か? 想像力が鏡の世界の果てまで及んでしまうと、それまで沈黙していた鏡の中の階段や廊下の暗がり、開いたドアの向こうの明るみから、 不意に何かが恐ろしい圧力をもって激しく見つめ返してくるように感じ始め、無性に怖くなって、そんな妄想を振りほどくように外へ駆 け出すのだった・・・ 写真黎明期の技法、ダゲレオタイプ(銀板写真)に取り組むようになったのは、二十歳すぎで撮り始めてから、何年か経ったころだった。 ダゲレオタイプではまず初めに、画像のベースとなる銀板が傷や曇りのない完全な鏡面になるように、注意深く観察しながら研磨する必 要がある。また、銀板にヨウ素を反応させ感光性を与える工程でも、鏡面上の色の変化を目で確認しながら処理を進めなくてはならない。 しかし、実際にやってみると慣れるまで「鏡の表面」をうまく見ることができず、いったい鏡の表面を見るとはどういうことなのか、理 解できずにすっかり混乱することになった。 普段わたしたちは、鏡に映されたもの、鏡の中を見つめることに慣れていて、鏡そのもの、つまり鏡の表面を見つめることは、ほどんどしない。そして、鏡がよく磨かれていればいるほど、その表面を見つめることはますます困難になっていく。鋭利な鏡面を前にわたしたちが見つめるのは、銀という物質の色や質感ではなく、その表面から生み出されるリフレクション、反射でしかないからだ。(鏡の、固い、 見ることのできない表面。アリスがそれをくぐって向こう側へ、鏡の国へと進んでいくためには、表面がガーゼか明るい銀色のもやのよ うに、鈍くやわらかくなるのを待たなくては・・・) それじたい不可視の鏡面に向かって、そこにあるはずの距離を頼りに、執拗に焦点を合わせていくこと。そこには何かとても写真的な 問題が含まれていないだろうか?カメラは、単に向こう側へと眼差しを届かせる道具ではなく、あちら側からこちら側に向けられた眼差しを受け止め、眼差しの向こう側とこちら側、そしてその中間地点を自在に行き来することのできる、渡し舟に似た装置なのかもしれない。
作家プロフィール:
新井卓 /Takashi ARAI [ウェブサイト] http://www.TakashiArai.com
1978 神奈川県川崎市に生まれる
2001 国際基督教大学教養学部理学科 中退
2004 東京綜合写真専門学校写真芸術第二学科 卒業 [個展]
2000 「Ocean, distilled...(海、空白の...)」"(Ocean, distilled...)" Cafa Cabiria, 東京.
2006 『鏡ごしのランデヴー Rendezvous on Mirror』ダゲレオタイプによるポートレイト/新井卓展 横浜美術館アートギャラリー1, 横浜. 横浜美術館(財団法人横浜市芸術文化振興財団) 主催. アーティスト・イン・ミュージアム横浜
2006「3人のアーティスト」における公開制作と展示. [グループ展]
2002「1.1」 目黒美術館市民ギャラリー, 東京.
2003 映像詩『Aria』 慶應義塾大学来往舎, 横浜. 初演および『イマージュと現実、写真/映像をめぐるシンポジウム─詩人・吉増剛造氏を迎えて』にパネリス トとして参加. 慶應大HAPP助成企画, Talitha, Art Production.
2003二人展『洋上の浮子、花の筏』 横浜赤レンガ倉庫一号館, 横浜.
2005 『ヘンゼルとグレーテル』 新国立劇場中劇場, 初台. 演出/菅尾友, オペラと写真によるコラボレーション. [出版物]
1995-1998 『現代詩手帳』(思潮社)新人作品欄他に詩作品掲載.